LHC-ALICE Experiment

Flying over ALICE

Large Hadron Collider(大ハドロン)加速器

LHCとは、Large Hadron Collider の略称で、スイスとフランスの国境地帯を跨ぐ全長27kmの巨大な衝突型加速器です(右図:写真提供CERN)。LHCのトンネルは、地下50-150メートルのところにあり、2000年まではLEPⅡのトンネルとして電子・陽電子加速器として活躍してきました。 地下のトンネル内には合計約1700基を超える大型超電導磁石がインストールされています(右図:写真提供CERN)。この磁石中に陽子や重イオンビームが通るビームパイプ2本が入っています。

LHCは、陽子・陽子衝突加速器、鉛・鉛衝突加速器として2010年から本格的に稼動を開始しました。これまで、重心系エネルギー7, 8, 13TeVの陽子・陽子衝突実験が行われてきました。ALICE実験の隣にATLAS実験やCMS実験があり、これらの実験がHiggs粒子を発見しました。LHCのプログラムでは、陽子・陽子衝突が最優先実験項目でありますが、年に1ヶ月は、重イオン衝突ランが行われます。年によっては、鉛+鉛衝突ではなく、陽子+鉛衝突が行われます。鉛+鉛衝突は、これまで2010, 2011, 2015, 2018年に行われ、核子対あたりの重心系衝突エネルギーは2.76 TeVと5.02TeVです。これはRHICと13-25倍の衝突エネルギーになります。これが、より高温で長寿命なクォークグルーオンプラズマの生成を可能にします。




ALICE国際共同実験

ALICE実験は、A Large Ion Collider Experimentの略です。文字通り、高エネルギーの重イオン実験に特化した実験です。ALICE実験は1993年に発足し、様々な検討を重ねた結果、左のような検出器群になっています(左図:CERN提供)。2000年ころから建設が開始され、総建設費は ~150億円、全体の大きさは16m x 16 m x 26m、総重量は10000 トンにもなります。

中央領域の測定器群は、赤色のL3ソレノイド電磁石の中に入っています(左図:CERN提供)。衝突点から、ITS(シリコンピクセル2層、シリコンドリフト2層、シリコンストリップ2層)、TPC(3次元ガス飛跡検出器), TRD(遷移輻射検出器), TOF(飛行時間測定器)、HMPID(粒子同定チェレンコフ検出器), EMCal/PHOS(電磁カロリメーター)が配置されています。前方領域には、ミューオンを検出するための、MCH(飛跡検出器)やダイポール磁石、MTR(ミューオントリガー生成検出器)が配置されています。

ALICE実験は、ハドロン、光子、電子、ミューオンなど様々な粒子を広い運動量の範囲で測定できるように設計されました。


ALICE実験は、41ヶ国、177の機関、2000人程度から構成される大型国際共同実験です。日本からは、東京大学、筑波大学、広島大学、奈良女子大学、長崎総合科学大学が正式にALICE実験に加盟しています。



鉛+鉛衝突では、非常に沢山の粒子が生成されます。左の図は、TPC測定器で捉えた鉛+鉛衝突の1イベントです。数千の粒子がTPC測定器で検出されます。 ALICE実験は、dN/dy=8000下で、正確な動作性能が果たせるように設計されています。

ALICE実験高度化

LHCの改修期間(2019-2020)にALICE実験は大規模な実験高度化を行います。ITSが7層のピクセル検出器に変わります。MAPS技術が使われ、さらに細分化されたピクセル検出器になります。

TPCのエンドキャップ部分も変わります。ワイヤーによる信号増幅から、GEM(ガス電子増幅器)による増幅に変わります。

データ収集系も変わります。TPCからのデータ量が毎秒数テラバイトにもなります。この全てをディスクに書き込むことはできないので、リアルタイムで信号を処理し、飛跡情報に再構成して、データ量を落としてディスクに書き込みます。

また、前方にもMAPS技術のシリコンピクセル検出器が導入されます。

これらの高度化を駆使して、クォークグルーオンプラズマや相転移機構の詳細な研究へと展開していきます。

東大グループの取り組み

東大グループは2007年にALICE実験に正式に加盟しました。

しかし、それ以前の2002年から、ALICE実験への研究準備を進めてきました。2002年からALICE実験用の遷移輻射検出器(Transition Radiation Detector)の研究開発に参加し、CERN PSでのテスト実験を進めてきました。特に電子同定能力の評価やアルゴリズムの最適化、今となっては汎用的になりつつある機械学習を取り入れた電子同定を開発しました。(当時は自分でニューラルネットワークのコーディングをしたものです...)

2007年以降は、TRDの建設と現場での導入やコミッショニングを行なったり、フロントエンドのスローコントロールや制御系の開発を行いました。LHCの第1期運転機関(2009-2013)はTRDの運用を現場で進めました。


LHCの改修期間(2014)には、タイムプロジェクションチェンバー(TPC)のバックエンド高度化に取り組みました。TPCデータのバンド幅を2倍ほど向上させる計画です。FPGAに放射線耐性のよいマイクロセミのSmartFusion-2を用います。このSmartFusion-2は、フラッシュベースのFPGAファブリックと166MHz ARM® Cortex®-M3マイクロコントローラ・サブシステムが入っています。東大グループは、ARMコアで走るLinuxの開発やLinux上で走るアプリケーション(フロントエンドの制御、TTCチップの制御、FPGAのリモートプログラミング)の開発を行いました。


LHCの第2期運転期間中は、主にTPC測定器の高度化を進めました。これまでのGEM経験を生かし、イオンフィードバックの基礎測定、シミュレーションによる評価と構造最適化、新しいタイプのGEM(コブラGEM)やマイクロメガスの開発を進めました。現在は、TPCからのデータ取集処理系の開発を進めています。


これらの活動の一方で、郡司は月間ランコーディネーター(2015, 2017)や副ランコーディネーター(2018)を務め、最前線での実験遂行&データ収集を指揮してきました。