RHIC-PHENIX Experiment
RHIC加速器(相対論的重イオン加速器)
RHIC は、米国ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory: BNL)が建設した大型の加速器です。 BNLは米国ニューヨーク州ニューヨーク市のあるマンハッタン島から、東に大西洋に突き出た細長い島ロングアイランド島の大分東側の方に位置します(左図:写真提供BNL)。
RHICは周長が約3.8キロメートル、二つの独立なリング(Yellow ringとBlue ring)から成っています。金原子核同士の衝突で核子あたりの重心系のエネルギーで200GeV、陽子・陽子の衝突では500GeVでの衝突が可能です(左図:写真提供BNL)。
RHICは、1991 年に建設が始まり、1999年春に 2 本のリングが完成した。このRHICは、その名の通り、高エネルギー重イオン衝突実験のために建設された加速器である。従って、運転に関してはLHCと大きく違い、重イオン衝突の実験時間が大半をしめます。
また、RHICは衝突核種や衝突エネルギーをフレキシブルに変えることができます。QCDの相構造研究には、低いエネルギーの重イオン衝突が有効です。RHICはこのエネルギー領域での衝突も可能です(ただし、ルミノシティーは落ちます)。
左の図は、2000年から2018年までに行われた原子核衝突で、衝突核種とエネルギーを見たものです(写真提供BNL)。このように、様々な核種(Cu, Ru, Zr, Au, U)と様々なエネルギー(8-200 GeV)の下で高エネルギー重イオン衝突を行ってきました。これがRHICの強みです。
また、RHICでは、QGPの物理だけでなくspinの物理研究も積極的に行われています。偏極した陽子どうしを衝突させることで、陽子内の構造関数やグルーオンの陽子スピンへの寄与を検証しています。
PHENIX実験
PHENIX実験は、世界11ヶ国、 43研究機関、430名を超える研究者・技術者・大学院生が参加する大型国際共同実験です。日本からも12の国内機関が参加しています。
PHENIX実験は、日米科学技術協力事業(高エネルギー物理学)のプロジェクトして永きにわたり推進されてきました。
PHENIX実験は、中央電磁石を囲む二つの中央アームスペクトロメータ(東アームと西アーム)と、ビーム軸の前後方に設置された南北両ミューオンアームと、衝突点近傍付近に設置された幾つかの衝突事象差別化用検出器とから構成されています。
Beam Beam Counter (BBC)とZero Degree Calorimeter(ZDC)で、金・金衝突の衝突係数に応じた事象の区別化をします。 中央アームスペクトロメータでは、Drift ChamberやPad Chamberで荷電粒子の飛跡測定、運動量測定を行います。その後方のRing Imaging Cherenkov検出器で電子の同定を行います。その後方に(片方のアームのみですが) 飛行時間測定用のシンチレーション検出器やガス検出器、高横運動量識別ためのAerogel Cherenkov検出器があります。そして、最後方に電磁カロリメーターがあり、電磁シャワーのエネルギー測定、荷電粒子の飛行時間測定を行います。
PHENIX実験の特徴は、電子やフォトンの測定に非常に強いことです。また、全ての検出器の応答が早いのと各測定器からのデータ量が大きくないので、非常に高レートでデータを収集することができます。
RICH検出器と東大グループの取り組み
東京大学は、PHENIX測定器の中でもRICH検出器の建設と運用を行ってきました。中でも、特に開発に力を入れたのが、5120本のPMTを高速で読み出すフロントエンドシステムの構築です。
RHICのビームクロックは9.4MHzであり、107nsecごとにバンチが交差する。従って、この107nsecごとに測定された電荷情報を電圧情報に変換し、さらにデジタルに変換し2次収集系に送らねばならない。10bitのADCを仮定すると単純計算で、60GB/sもの大量のデータとなるので、このままではデジタル変換や2次収集系転送に非常に時間がかかりデータの処理が難しくなる。さらに、RICHの読み出しシステムが配置できるスペースにも限りがあるため、読み出しシステムは8ラック程度で構成しなくてはならない。つまり、1ラックで最大でも7-8GB/sのバンド幅であり、もはや汎用的なシステム(例、VME)は使えない。
もちろん、全てのバンチ交差で衝突が起こるとは限らない。したがって、PHENIXの測定器は、様々な情報を用いて物理衝突が発生したかを瞬時に判断するためのシステム(Global Level 1)がある。そのGL1からの信号をもとに、物理現象が発生したイベントのみをデジタル変換することで、データ量を削減する。しかし、GL1の物理事象の判定には、40ビームクロックが必要となるため、読み出しシステムは、各測定器が瞬時に判断用信号を生成してからGL1が判断している間、電荷情報を記憶しておくことのできる機能も要求される。
下の図の赤いモジュールが、RICHの1ラック分の読み出しシステムである。これで640本の信号を扱う。このシステムはController module x1, AMU/ADC module x10, LVL1 trigger module x2, readout module x2から構成される。Controller moduleは、光リンク(G-Link)を通じて、GL1->MTMからシステム制御信号やビームクロックを受け取り 、他のモジュールを制御する。RICHからの信号はAMU/ADC moduleに入力される。入力された信号は、INT-R ASICチップによって、電荷とタイミング情報に変換され、チップ内のアナログメモリーに記憶されていく。並行して、INT-Rチップは、電流情報をLVL1ボードの専用線に出力する。この専用信号線は、5枚のAMU/ADC moduleの出力の電流和を取れるように設計されている。LVL1ボードで受け取られた電流和はすぐにFADCで電圧情報に変換され、閾値を超えたか超えないかの情報をGL1に転送する。GL1からのトリガーをController moduleが受け取り、それをAMU/ADC moduleに転送する。AMU/ADC moduleは対応するAMUセルからのアナログデータを抜き出し、それをINT-Rチップ内のウィルキンソンADCでデジタル信号に変換され、readout moduleに転送される。
東大グループは、毎年、全てのPMTの動作確認や読み出しシステムのチェックを行い、実験期間中の運用に責務を追ってきた。
下図の右は、RICHのリング像である(多くのイベントを積算したもの)。ペデスタル、1光電子位置の校正、RICHの鏡のアライメントなど、様々なデータ校正を経て、物理解析に利用できるようになる。